マカンマラン
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    少年どもよ大志を抱け

    本当の大人への道程は、お前らが思っているより、はるかに長い

     

    一話完結の短編集で、マカンマランというお店に通う客一人一人の物語。

    春のキャセロールと最後のアドベントスープが食べてみたい同率第一位。

    教職への情熱を取り戻していく柳田先生の話が一番好きだけど、退職を決心して新たなスタートを切った塔子の生き方は応援したくなる。

     

    小説 * comments(0) * - * - - * moji茶
    悪意の手記
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      不意に得た病のために、僅か15才で死と向き合うはめになり、苦しみ、嘆き、心をズタズタにされた主人公が、死を覚悟したある日、不意に治癒し社会に投げ出されるところから話が始まる。

      生を憎み、生者を呪いながら病床にあった彼は、退院後も日常生活に全く馴染むことができず、幻覚を見、頭はぼんやりとして、病床で考えていた死にとらわれ続けるが、そのさなか友人を殺めてしまう。

      どれだけ深く物事を突き詰めて考えていたとしても、その殺人もその後の行いも思春期の少年法の幼なさであり、その幼さと死の影に翻弄されながら10年ほど投げやりに、死んだ気持ちで生きていく主人公の描かれ方に、夏目漱石の「こころ」を彷彿とさせるものがあった。

      殺した友人の名前がイニシャルの「K」であったり、友人を殺した主人公がその犯した罪に常にとらわれ、片時も息もつけないような人生を送っている点など、「こころ」の先生のその後を作者が予想して描いたのではないかと思うところもちらほらあった。

      読み進めているうちに、これは殺人をテーマにして描かれた小説なんだなとは誰もが早くに気づくことになろうが、作者の道徳観や人生観などが誠実に表現されており、好感を抱いた。

      これは名著だと思う。

      自分のことで精いっぱいだった主人公は様々な出会いを経て視界が広がり、今まで自分がどれだけの人を傷つけていたかに気付き、これまでの自分の罪を受容し、それでも生きていく決心をする。

      死にとらわれている主人公を取り巻く登場人物、武彦、祥子、リツ子の描かれ方がよかった。

      武彦は凶暴な男だが、妙に主人公には甘かった。また彼も主人公と同じで何かを変えようとして必死だったのかもしれない。

      あとは、最後の母親の受話器ごしの「言ったら駄目よ」という言葉は一瞬寒かった。

      一人称小説は一人の視点からしか物事は語られないわけであるが、この母親の言葉は当時の事件の全貌をつぶさに表すものだと思う。

      我が子の異変に気付きつつも、殺人犯にはしたくないという思い。母親もまた、主人公と同じ年月を苦しんだのか。

      人生はその人一人だけのものではなく、多くの人を巻き込んで織りなされていくものなんだと考えさせられた。

      こういう仕込みも作者はうまい。

       

       

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