「仏果を得ず」
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    文楽の若き技芸員の健が芸の極みを目指して奮闘する熱血青春サクセスストーリー。久々にまた文楽を観に行きたくなった。文楽作品や登場人物に対する考察も良い。芸に恋に人生は忙しく、芸事を極めるにはあまりにも人の生は短い。

    思わず朱子の名言が過ってしまった。寿命といういかんともしがたいプレッシャーをものともせず、高みに少しでも上ろうとする技芸員さんたちにエールを送りたくなる作品です。

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    「神去なあなあ日常」
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      進路も決まらないちゃらんぽらんの高校三年生が、ひょんなことから林業に首をつっこむことになって・・・というところから始まる、ハートフル(?)な小説。
      都会から隔絶されたド田舎、神去村。
      主人公の勇気君は携帯の電池を川に捨てられ、脱出不可能な限界集落でいやいや林業の研修を受ける羽目になるのだが、出だしからかなり軽快な感じで、笑える。
      そして、林業という仕事がどういうものか、今時の若者の視点で驚きや笑いを通して見えてくる。とても手間がかかる仕事だけど、我々が思い描く自然というものは、人間が長い間手間をかけて仕上げたものなのだ。
      勇気が次第に仕事に慣れ、責任感を持ち始めた頃に、今度は不思議体験が始まる。山なりという不思議な現象や神隠しなど、都会では信じられないことが起こるのだ。着物を着た美人姉妹は本当に山神様だったのだろうか?
      いつしか実家の横浜よりも神去村から離れがたくなっていることに気が付く勇気。彼の視線から見える神去村の四季の移り変わりは美しく、自然と直に触れているという感動が伝わってきた。
      最初は村社会特有の疎外感を感じながら、次第にそれにもめげずにやりがいを見つけていく主人公に好感が持てる。

      また、夏祭りや神事は地区独特の雰囲気が伝わって面白く、村の常識に振り回される主人公がそれを次第に受用していく過程が面白かった。
      今後は直紀との恋の行方が今後気になるところ。
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      「まほろ駅前番外地」
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        本編よりもこちらのほうが面白く、楽しめました。

        本編は、多田も行天も後ろ暗い過去をひた隠しにして、お互いに言い出せず、傷をなめ合うような暗い部分が強く、閉塞感を感じていました。が、こちらは本編に登場したお客さん達を中心にしていて、2人の暗い部分があまり出てこなかったので、ほんわかした読書ができました。2人のやりとりも面白く、岡夫人や由良公とのエピソードなどは結構笑える部分やほっこりする場面があってよかったです。
        おばあちゃんの若かりしラブストーリーも切なかった。

        次回もこういう短編集で多田と行天の仕事っぷりが読みたいです。

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        「まほろ駅前多田便利軒」
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          とても読みやすいというか、一晩でサクッと読めてしまった。ちょっと軽すぎて、じっくり読書ができると思って手に取った身からすると、不完全燃焼な感じです。

          登場人物は便利屋を営む多田。主人公ですが、おっさんで、ちょっとムサイ。それくらい自分でやれよ、というような仕事を請け負って生計を立てています。とりあえず波風たたせずまじめに地味に・・・な毎日が、高校時代の同級生である行天と出会ったことで、とんだ事件に遭遇していくことになります。

          いや、行天と出会った後に仕事が急に複雑になっていくというか、行天が疫病神というか・・・。

          多田というキャラクターにはある程度入り込めました。とても抱え込みやすい性格で、妻と子供、行天に罪悪感を感じて生きている。それにひきかえ、行天というキャラクターはいまいち呑み込めずじまい。「変人」というレッテルを最初に貼られたキャラクターだったので、そこまで彼の人柄に納得しようと努力する必要もないんでしょうが、どうもひっかかって無理でした。どうして行天は多田のところから出ていかないのか?そりゃ、好きだから、懐いたから、みたいな理由なんだと思いますが、それにしてもなんで多田のところに居座り続けるのか。一方、多田は、罪悪感から行天を見捨てられないのか?それとも罪悪感を上回る友情?庇護欲?を感じてるのか?という、二人の関係の根幹が読み取れずに読了したので、かなり不完全燃焼しています。まさかBLじゃないですよね(汗)。

          ただ、全体的にはドラマ性もあり、事件の真相などに迫る部分や、便利屋としてのお客さんとのやりとりは結構面白く読めました。続巻もさっそく図書館で借りてきたので、多田と行天の共同経営っぷりを堪能したいです。曾根田のおばあちゃんや、ルルや、岡のおっさんや、由良くん、まほろ署の早坂さん、ほかにも色々な登場人物が出てきました。続巻でも、同じ人々かからんでいればいいなと思います。

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          「舟を編む」
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            三浦 しをん
            光文社
            ¥ 1,620
            (2011-09-17)

            この作家さんて、本当に言葉を使うのが上手だなあと思う。どんどん読まされてしまうので、あっという間に読了です。しかもめっちゃ面白かった。

            一冊の辞書、『大渡海』出版にいたるまでの13年にわたるドラマです。

            辞書ってこんな風にできあがるんだなあという興味深さと、一生懸命仕事をしながら、それぞれに悩み、突き進んでいく主人公達に惹かれてずっと読みました。

            「辞書は、言葉の海を渡る舟だ」
            「海を渡るにふさわしい舟を編む」
            生命活動が終わっても、肉体が灰となっても。物理的な死を超えてなお、魂は生きつづけることがあるのだと証すものー
            死者とつながり、まだ生まれ来ぬものたちとつながるために、ひとは言葉を生みだした。
            三浦さんの表現って好きだぁ〜。
            私も職業柄、言葉や辞書には気を使っていますが、こんな表現で言葉をとらえたことはないです。辞書が舟だとは。

            西岡や松本先生など、脇役も味があってとてもよかったです。
            西岡の軽薄っぷりときたらもう(笑)。でも、『大渡海』の売り上げが予想以上に伸びたのは、絶対西岡の陰の尽力だよなあと思うと、評価されない働きというものの大切さも思い知ることができます。
            仕事って、「こだわり」が大事ですよねぇ。

            自分にはまだそこまでの「こだわり」が無いように思います。毎日忙しく、楽しく仕事してるけど、「こだわり」があればもっと面白くなるのかなあと、この小説を読んでちょっと思いました。

            タグ: 三浦しをん 舟を編む
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