2012.10.29 Monday
「オリーヴ・キタリッジの生活」
ピュリッツァー賞受賞作です。気に入った短編には「」をつけています。
『薬局』
オリーヴの夫、ヘンリーの物語。誰にでも親切であろうとする彼の生き方が自分の首を絞める。
デニーズに対する淡い恋心は結局誰にも知らせないまま、彼は年月を過ごしていく。
ヘンリー視点で書かれているが、オリーヴの視点からでも読めなくもない。妻は、とっくに夫の浮気に気づいてそうだ。彼女との会話を注意深く読んでいると、デニーズに苛立っているように読めなくもない?妻が浮気していた時期とも微妙に重なるし。それでも別れない夫婦。互いが足かせになっているのか。それもひとつの「愛」なんだろうか。全体的に哀愁漂う雰囲気で、薬局も最後はたたんでしまった様子。
『上げ潮』
生きることをあきらめた男の話。母親がトラウマになって、彼を死へといざなう。
オリーヴが、厳しい数学教師だったということがここでわかる。
ラストの海のシーンは結構気に入っている。彼は死ぬことをあきらめただろうか。
『ピアノ弾き』
アンジーはラウンジでピアノを弾いている。
いつも笑顔でピアノを弾く彼女は、実は緊張症で、複雑な過去と現在をもっている。
昔の男にラウンジで出会い、自分が憐れな女であると自覚しても、まあ、人生こんなものだろうと開き直る彼女が悲しい。いくつあきらめてきたのだろう。
最後の親切な人にヘンリーの名前が出てきたが、『薬局』での彼の哀愁を知っていると、素直にうなづけない気持ちになってしまう。
皆それぞれ闇を抱えて生きている。
『小さな破裂』
クリストファーの結婚パーティーの話だけど、オリーヴが怖い(笑)。結局この人も自己表現が苦手な人なんだなあと思った。もっと新婦さんと話せばいいのにな。何かしら気に食わない、という姑さんの気持ちもわからなくもないが。
『飢える』
アン・リンドバーグの名前が出てきた。『遠い朝の本たち』に出てきた人名なので驚いたが、ここではあんまりいい書き方がされていなかった。といっても、一行くらいしか出てきてないけど。
とても暗い話。元気がでなかった(笑)
途中でちょっと飽きてしまいました。老人の憂鬱を延々読まされて、通勤がブルーになっていまいそうでした。『セキュリティ』では、初めてオリーヴが自分の言動を息子に責められて動揺します。オリーヴって、人格障害だったんか…?というくらい自分視点でしか物が見えてないんですね。
でも、最後の『川』で新たな伴侶?を得て、新しい人生を生きていこうとしているところは救いが見えてとてもよかったです。
たとえ人生のゴールが間近だとしても、これからもオリーヴはオリーヴらしく生きていくんでしょう。最後の最後に救いの見えるラストで本当によかったです。
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