「タイタンの妖女」
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    カート・ヴォネガット・ジュニア
    早川書房
    ¥ 798
    (2009-02-25)

    大金持ちのマラカイ・コンスタントが、運命に翻弄されつつも波瀾万丈な人生を全うしたお話。

    この本をビレッジバンガードで購入したとき、確か宣伝キャプションが飾ってあって、「抱腹絶倒!」とか書いてあったような気がしたのは、私が夢でも見たのでしょうか・・・。
    てっきり笑えるSFなんだと思って購入しましたが、まったく笑えませんでした(笑)。

    ラムファードという、時空を行ったり来たりできる全知の男性が、コンスタントに彼の未来を告げる、というところから話が始まります。
    最初は、ラムファードという男は人間なのに時空を行ったり来たりできるし、人の未来も知ってるし、神様か、神様の使者か何かかと思って読んでいました。
    コンスタントが火星で酷い目に遭い、水星で過ごしているときも、これは神であるラムファードが導いていることなんだと思っていました。

    コンスタントは火星に行った後、記憶を奪われ、友も故郷も覚えていない状態で懸命に数少ない自分の手がかりだけを頼りに生き抜こうとします。そして彼は、利用されただけの人生だったとしても、自分の人生を生き抜いたという実感を得ることが出来ました。親友の記憶も、故郷の記憶も、何も覚えていない男は、自分の死を穏やかに迎えます。
    コンスタントの流転の人生は、大変読み応えがあり、一種の哲学的要素も感じられました。

    でも、まさかそんなオチ!?(笑)

    結局、一番憐れに感じたのは、コンスタントやビーやクロノ、地球人たちを導いてきたラムファード。
    地球と火星との戦争を画策し、新しい宗教を設立し、妻と一度も共寝をせず、ただひたすら地球人の未来のためと信じて活動していたことが、実は一つの部品をとある星まで運びたいという異星人たちの計画の一端にしか過ぎなかったという酷い話。
    そんな人生ってあるものか。と思いますが、それも人生。
    最後は、この小説に出てきた人々の流転の人生をしみじみと思い返して余韻に浸れます。

    ラスト、コンスタントがストーニィに会うシーンは、最初は「えぇ・・・」と物足りない感じがしましたが、読後から間が開くと、あれでよかったんだと思います。
    やはり、天にいるだれかさんは、彼が気に入ってるんですね(笑)。


    タグ:タイタンの妖女 カート・ヴォネガット・ジュニア ハヤカワ文庫 SF

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    「ニューロマンサー」
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      難しかった!すっごく難しかった!

      舞台は日本の千葉県から始まるけど、現代ではなく遠い未来の荒廃した都市という設定。そんな荒廃した千葉シティでヤク漬けになり、にっちもさっちもいかなくなって、運に見放されたケイスという男が主人公。

      彼の特技は電脳世界に没入(ジャックイン)して、電脳が作り上げる仮想世界で様々な情報を探ること。その特技をかわれて、謎の男アーミテージから目的もわからない任務をまかせられることになる。

      最初は、ケイスを任務に誘ったアーミテイジの目的もわからないし、電脳世界や人工知能など、意味不明の世界観に慣れるので精一杯。でも、意外に嫌気がささずに読破することができた。多分、作者の構想がとてつもなく斬新で、突飛も無かったから(笑)。
      ヤク中になった体の血液を全部入れ替える手術とか、肝臓と膵臓を入れ替える手術とか、寿命を延ばす技術など、ものすごい先進医療が描かれている。SFは、そういう設定なんです!と思って読むしかないけれど、この作者の描く未来はこちらの想像の遙かに上を行っているので、いちいち驚いてしまった。
      モリイがさまよった迷光(ストレイライト)はどんな世界なんだろうか。いまいち想像は出来ないけど、不思議に惹かれてしまう。

      冬寂(ウインターミュート)の目的は、もう半身のニューロマンサーを攻撃し、自分もろとも破壊することで新たな電脳世界を構築する・・・ということでよかったんだろうか?冬寂(ウインターミュート)は、天才開発者マリイ=フランスの構想を実現するために行動し、プログラム上、自分で自分を破壊することができないので、アーミテイジやケイスを使ったということでいいの?

      難しくて、もしかしたらほとんど理解できていないかもしれない(笑)
      3ジェインは人間でいいんだよね?(笑)
      誰が電脳世界の人間かこんがらがってきた。
      とりあえず、ディクスは電脳世界でのケイスのいい相棒。もしかしたら一番の親友だったのかもしれない。ていうか、この小説中、ディクスが一番頑張ったんじゃないか?リオ=ニューロマンサーの防御壁を破壊したのは彼だし。

      あと、驚いたのは、この小説がハッピーエンドだったこと。
      小説の出だしが、なかなか退廃的だったので、大役を終えたケイスもモリイも全員死ぬのかと思ってたけど、意外に全員生きてたし、ケイスなんかは新しい肝臓と膵臓を買ってヤク中から復活。これからまた、適当に仕事して、女の子にうつつを抜かして生きていくのかな。

      タグ:ニューロマンサー ウィリアム・ギブスン SF 

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      「ハーモニー」
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        「虐殺器官」のラストの続きになるのかな?
        数十年後の世界だと思って読めなくもない・・・。

        同時多発核戦争「大災禍」(ザ・メイルストロム)から生き残った人々は、新たな社会を築いて生きていた。お互いが気遣い合い、不幸な人を見過ごさない社会。成人した人は健康器具を体内に内蔵し、常に病気から守られている。

        そんな世界に違和感を持った少女達が、ささやかな抵抗を示すところから話ははじまる。

        この小説も、前作の「虐殺器官」同様なんだか哲学的な話だった。
        「意識」と「死」との関わりについて延々考えている小説だと言えなくもない。
        が、確かに「意識」がなくなることは「死」と同じかもしれない。
        人間にとって「意識」を奪われることは、「死」ぬことと同義なのかもしれない。

        小説のラストも結構好き。この人の作品は繊細で、どこかぴりぴりと張り詰めたところがあって、そこがいい。
        遺作になったことも併せると、深みの増す作品になる。

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        「虐殺器官」
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          ずっと気になってた本。題名からして物々しい。
          デザインに一目惚れして買いました。

          表紙もクールですが、内容はもっとクールです。

          「ぼく」ことクラヴィス・シェパードは情報軍大尉として主に要人の暗殺を請け負っていますが、冒頭はむごたらしい虐殺の光景から始まります。

          一体どんな話や・・・と、最初は話の回路が結べなくてもどかしいですが、中盤くらいからスピード感もまして先が気になってたまりません。テロや世界情勢、文学の話にも色々飛び火し、京極◎彦のような「雑学を付け足した感」もなく、作者の素養の深さにも驚かされました。

          ラストもよかった。母の愛情を信じていた「ぼく」の無意識を破壊した、母の記録。
          滅亡するアメリカ。

          生きるとか死ぬとか殺すとか、命に関することが小説のテーマになってます。
          一見アメリカのSFアクションかとも思われますが、これは小説というより哲学書だと思います。


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          「星を継ぐもの」
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            ジェイムズ・P・ホーガン
            東京創元社
            ¥ 735
            (1980-05)
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            ひさびさにSFを読みましたが、やっぱ面白いですね〜。
            世界観が自分にマッチしてないとなかなか受け入れがたいSFですが、今回はしっくりきました。

            月で謎の白骨死体が発見されて、どうやら人間に近いようなんだけど、死亡推定年がなんと・・・・
            というところから謎が謎を呼び、この死体はいったい何者???と、彼の謎を解き明かしていくSF科学小説です。

            このルナリアン(月で発見されたから)がどこから来たのか、なぜ来たのか。解明されていく様がとても面白かったです。
            人間の進化の謎にせまったSFです。

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            「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」
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              アンドロイドは電気羊の夢を見るか?
              アンドロイドは電気羊の夢を見るか?フィリップ・K・ディック
              早川書房 1977-03
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              < 人間とアンドロイドのいたちごっこ >

              SFです。
              本格(?)SFはこの本で二冊目かも。
              のってくるとスイスイ読めるけど、世界観になっとくできないと途中でおわってしまうのがわしとSFの関係。
              この本も、出だしは結構苦労しました。
              でも話自体を整理しながらよんでいくと、要するにアンドロイド対人間という構図が基本で、舞台は放射能におかされた地球。
              主人公とアンドロイドとの鬼ごっこが話の中心になります。
              専門用語とかも飛ばして読んで大丈夫です。

              読みながら、ちょっとわかりにくかったのが、人間のもってる「共感」という機能。
              この小説は、そもそも用語解説とかがないので(あったらあったで話がくだらなくなるかも)SF初心者にはすごくわかりづらいです。
              平気でみんなもう知ってるよねーみたいにぽんぽん初耳な言葉や設定が出てくる。
              「共感」することにより、その場にいない人たちと、喜びや苦しみを分け合えるという不思議な力が人間にはあるという設定にも最初は「え?」といった感じでした。
              んで、アンドロイドにはその能力がないらしい。
              でも・・・今のわしらにもそんな超能力ないよね・・・・
              この小説では人間はエスパーなみに感受性が高いようです。

              アンドロイドは平気で生き物が殺せて、人間にはできない。
              この世界の人間は、「牛革のバック」ときくだけで精神の波長がおかしくなります。じゃあ・・・わしはアンドロイドだ・・・ごめん・・・。
              いきすぎた動物保護団体のようだな・・・。(-L-;)
              よくよく読んでみると、生きた動物は絶滅の危機にあるらしく、異常なまでの動物愛はそういう時代背景があるらすぃ。

              人間は生き物にたいする愛情をもっていて、アンドロイドは持っていない。
              そこが機械と人間の違いだ、と、この小説でははっきり書かれてあります。
              でも・・・人間にだって愛情の薄いのもいるんじゃないのかな・・・なんていう疑問をもったらもうこの小説は面白くないかもしれません。
              ちなみに、この作品は映画化もされてるようですね。
              「ブレードランナー」?だっけ?
              すみませんうろ覚えで。

              SFって、映画にしたほうがリアル感が増していいかも。
              とくにこの小説は撃ち合いとか過激なシーンも多いし。
              でも映画のほうがおもしろかったら小説書きさんはつらいかもね・・・・。

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              「闇の左手」
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                アーシュラ・K・ル・グィン
                早川書房
                ¥ 924
                (1978-09)
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                今回はあまり呼んだことの無いジャンルを読もう、ということでSFのこの本を選んだんですが、初SFなので失敗しないよう、好きな作家さんの本にしてみました。
                アーシュラ=K=ル=グヴィンは『ゲド戦記』でよく知っていたし、その独特の世界観が大好きだったので、きっとSFでも面白い世界観を展開してくれるだろうという期待から選びました。
                で、読んでみて、
                とても面白かったです!もともと好きな作家さんの本だったんで当然でしょうが。
                とりあえず初SFは成功でした。

                時代ははるか未来の宇宙のおはなしで、そこでは人類同盟なるものが形成されており、民主主義というか、議会主義というか、平和的な社会が存在しています。
                小説の舞台になる惑星ゲセンは<冬>とよばれるにふさわしく極寒の星です。
                そこでは人間は両性具有で、性は分裂していません。
                まだ人類同盟に加盟しておらず、自分の星以外に宇宙人がいるなんてことも理解していない星でした。

                この星と友好関係を築こうとやってくるのが人類同盟エクーメンの使節ゲンリー・アイです。
                外星の存在を知らない惑星の警戒をさけるため、使節はいつもたった一人で派遣されます。
                そして彼はたったひとりでこの星の人々に、この星以外にも人類が住む惑星があることや、そして友好的な外交関係を築きにきたのだということをその星の政治家や有力者に説いてまわります。
                でも当然宇宙人の存在なんて信じる人はほとんど居ないのね。

                惑星<冬>はたまたま平和的な国なので、ゲンリーを即殺したり戦争をおこしたりすることはありませんでしたが、当然ゲンリーは政治的に微妙な位置にたたされることになります。
                でも、そのなかでもゲンリ―に協力してくれる人がいたのです。
                それがカルハイド王国の宰相エストラーベン。

                彼は本当にこの国、この星を愛した人間だったのです。

                でもエストラーベンが政治的陰謀にまきこまれてからは、ゲンリ―もその渦中にまきこまれてゆきます。
                敵か味方か、人を煙に巻くような話し方をするエストラーベン。
                この星の人間は直接な物言いはせずに、なにやら暗示的な言い方をするので、慣れないゲンリーはそういう口調にいらだってきます。
                もしかしてエストラーベンは自分を騙しているのではないか??ゲンリーは見知らぬ星で一人悩み苦しみます。

                でも彼(彼女?)が実は最初から最後までゲンリ―のために尽くしてくれていたのです。
                自分の星をよりよい星に導くため、彼は命をかけてゲンリ―を守るのです!!
                うーむ。深い。

                話の途中に挿入される<冬>の神話が北方神話のようでとても面白かったです。
                その神話がとても暗示的で、とても気になりました。
                内容的にはフィンランドの『カレワラ』とよく似ていて、大地創造のお話です。
                こまごまとした暦の設定とか、宗教とか、かなり綿密にかかれています。
                なんかSFってすごい・・・。
                とりあえず複雑な頭をもってないと書くのは無理かも??


                タグ:アーシュラ K ルグヴィン 闇の左手 SF 

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