マリアビートル
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    息子をデパートの屋上から突き落とされた男が、満を持して犯人に仇討ちをしかけるという出だしで始まる。犯人である中学生の王子は大人を見下し、人の心理を巧みに操って犯行を重ね、ある日男の一人息子をデパートに誘い突き落した。
    この”王子”という少年が、いかにも現代にいそうな気持ち悪い少年で嫌悪感を抱いた。

    妙に自信にあふれていて、人を見下し、同級生たちに恐怖を植え付けて器用に操る。今まで読んできた小説の中で、一番不愉快な犯人だった。
    教師を試したり、友人を自殺に追いやったり、AEDを殺人の道具に利用しようとしたり。王子に加担している少年たちは、恐怖心で抵抗する力を失くし、されるがまま。大人の受けも王子はいいので、チクる勇気も出てこない。
    この少年は、中学生とは思えないほど狡賢く、ぶっとんでいる。だが、今時、もしかしたらこんな少年が実在するかもしれない。
    筆者のフィクションは、現代の社会問題を巧みに織り込んで進行するので面白い。ついつい読まされてしまう。
    そんな王子とは対照的な存在の、主人公で息子を病院送りにされた”木村”は、何か大きな力を隠し持っているのかと思ったら、最期までヘタレでちょっと幻滅。
    物語は盛岡行きの東北新幹線内で起こるが、檸檬、蜜柑、七尾、鈴木、スズメバチというキャラクター豊かなメンバーと、最後に登場する頼もしい祖父母たちに、終始ハラハラさせられた。
    筆者が描く犯罪は、フィクション作品に収まらない現実味がある。それは、現実の社会問題を巧みに織り込んでいるのと、彼の作り出すキャラクター一人一人の言葉、行動に、現代人が共感する部分があるからだ。
    ただ、今回の話は主人公たちが殺し屋なので(業者と呼ぶ)、境遇や行動に関してはあまり共感できる部分はなかったが。
    あと、筆者の引用好きは相変わらず。蜜柑の口を借りて様々な本の言葉が出てきた。薀蓄が長いと冗漫になるが、筆者の引用は程よい量で知識欲を刺激される。
    小説家の読書量に感嘆するばかり。いつか彼の本棚を観てみたい。そういう企画が既にないかな?
    同時多発的に数人の主人公が入り乱れて物語を繰り広げる手法は彼の得意技。書評を読んで、「巻き込み型エンターテイメント」と名づけられていることを知った。
    他の作家でこの手法を用いているものもあるが、話の進行のスピード、読者を巻き込んでいく手腕は筆者が一番うまいと思う。退屈する暇が一切ない。
    彼の作品を全部読んだわけではないが、初作の「オーデュボンの祈り」に垣間見えた作風の幼さが消え、最近は構成、進行ともに冴えわたった内容を描いている。

    ■今回筆者は「どうして人を殺してはいけないのか」ということを王子に質問させているが、鈴木という元教師現塾講師の口を使って、彼なりの意見が述べられていた。

    国家の経済活動のために定められた決まりなので、国家の都合がかわれば殺人は禁止されないかもしれないということだ。

    鈴木本人は、誰にも死んでほしくない、殺人は切ない、と言いながら、人を殺してはいけないという決りは国家の都合だと語った。

    この意見についてはなるほどと思うところもありつつ、素直に頷けないところもあるので、自分なりに考えてみようと思った。



    *この本は「グラスホッパー」を読了してから読むといい(今作に前作の鈴木が出ているから)けど、知らずに本書から読んでしまった。でも十分楽しめた。

     (あ行)伊坂幸太郎 * comments(0) * trackbacks(0) * - - * moji茶
    「ゴールデンスランバー」
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      ある日突然凶悪事件の犯人になってしまったら!?
      手に汗握る逃亡劇にドキドキしながら読みました。
      大きな陰謀の渦に巻き込まれ、逃げ惑う主人公青柳。彼を追い詰める警察。
      命令が下れば、警察は容赦なく青柳を拳銃で撃ち抜くだろう。それが善か悪かは一切関係なく―――警察組織の恐ろしさを感じさせられて、うすら寒く感じてしまいました。作者は一応警察の良心として、一人の刑事だけは口封じと証拠隠滅に意義を唱えるという設定を入れていますが、その刑事は結局退職に追い込まれており、やはり警察組織とその背景のおそろしさというものを強調しているように思えました。
      昨今の監視社会、メディアの問題にも触れていて、いつも思うのですが、彼の作品は娯楽的でありながら、社会派のようでもあり、考えさせられる場面が多々あります。人々の無関心、無責任な報道、冤罪。いろいろなことが作中には描かれていました。

      主人公が逃げる途中、さまざまな人々と遭遇することになります。ラストに向けては、主人公が通報されたり疑われたりしながらも、”信頼”という言葉を信じて自分の命運を掛けるところが良かったです。彼には善意の協力者たちがいて、例えば一番最初に主人公がはめられたことを教えてくれた森田森吾や、主人公と電話で連絡を取り合ったわけでもないのに息の合った連携を見せた樋口晴子などですが、それらが功を奏し、主人公をステージへと導いていく。

      キルオなる連続殺人魔の協力などは現実には起こり得ない事かもしれませんが、小説だからこそ描けるというか、権力に立ち向かおうとする主人公たちが清々しく、美化されすぎずに描かれていて、思わず応援しながら読んでしまいました。
      2008年本屋大賞受賞作です。さすが、というべきでしょうか。
       (あ行)伊坂幸太郎 * comments(0) * trackbacks(0) * - - * moji茶
      「終末のフール」
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        終末のフール
        終末のフール
        posted with 簡単リンクくん at 2006.10.18
        伊坂 幸太郎著集英社 (2006.3)通常2-3日以内に発送します。

        出版社 / 著者からの内容紹介
        あと3年で世界が終わるなら、何をしますか。
        2xxx年。「8年後に小惑星が落ちてきて地球が滅亡する」と発表されて5年後。犯罪がはびこり、秩序は崩壊した混乱の中、仙台市北部の団地に住む人々は、いかにそれぞれの人生を送るのか? 傑作連作短編集。

        今回の伊坂作品は終末をむかえるにあたっての短篇集です。
        伊坂作品は短篇形式が一番好きだなあ。適度にまとまっていて、読後、彼等はどうなるんだろうと考えられる余白を残してもらえる。読んだ後も想像で楽しめます。

        わしは冬眠のガールと天体のヨールが好きです。世界がおわっても、孤独になっても、娯楽と好奇心は失わないでいたい。
        とかいいつつもがき苦しむか、諦めて引きこもるかしかできなさそうです。(汗
        でも本当に終末の日が来たらどうするかな。
        今のところは家族といる、ですかね。いろんな人の終末の過ごし方を読んで、いろいろ考えてちゃいます。(^O^)
         (あ行)伊坂幸太郎 * comments(2) * trackbacks(1) * - - * moji茶
        「砂漠」
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          評価:
          伊坂 幸太郎
          実業之日本社
          ¥ 1,600
          (2005-12-10)

          麻雀、合コン、バイトetc……普通のキャンパスライフを送りながら、「その気になれば俺たちだって、何かできるんじゃないか」と考え、もがく5人の学生たち。社会という「砂漠」に巣立つ前の「オアシス」で、あっという間に過ぎゆく日々を送る若者群像を活写。日本全国の伊坂ファン待望、1年半ぶりの書き下ろし長編青春小説!
          amazon.comより


          やっと読み切りました!最近一日一日がすごく早くて驚きます。
          「死神の精度」がかなりよかったので、勢いで「砂漠」にも手を出してしまいました。
          この本を読んでまず思ったのは、伊坂氏はひきだしが多いなあということ。
          いろんな技法や構成を使い分けて書いてます。技の多さに驚きました。
          キャラクターは当然濃いし、彼特有の現実から乖離した設定も不思議と違和感なく作品と読み手に馴染んでいます。
          こういう小説は村上春樹あたりを彷彿とさせる・・・。羊男的な不思議設定小説とでも言いましょうか。
          麻雀を通して仲が結ばれ、トラブルメーカーの鳥井と怒れる哲人西嶋の二人を軸にして起こる事件が鳥瞰型の冷めた主人公を変えていく。そして主人公も鳥井や西嶋をかえていく。たった四年間だけどだんだん濃くなっていく友情が、自分の学生時代とかさなってじんときました。

          しかし最近「死神の精度」と今作品だけかもしれませんが、引用が多い・・?昔からそうでしたか?最近だけ?
          「人間の土地」なんかからも結構引用されていて驚きでした。この本て結構哲学的というか、「星の王子様」同様言葉だけをおっていると本質を見落としそうというか・・・わしにとってはかなり難しい作家さんです。
          作品中に今の社会問題なんかも盛り込まれていて、それに対する意見に引用されていたりする。だからって「砂漠」がメッセージ性の高い小説かといえばそうでもないんですけどね。たらーっ
           (あ行)伊坂幸太郎 * comments(0) * trackbacks(8) * - - * moji茶
          「死神の精度」
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            死神の精度
            死神の精度
            posted with 簡単リンクくん at 2006.10.20
            伊坂 幸太郎著
            文芸春秋 (2005.6)
            通常2-3日以内に発送します。

            「俺が仕事をするといつも降るんだ」 クールでちょっとズレてる死神が出会った6つの物語。音楽を愛する死神の前で繰り広げられる人間模様。『オール読物』等掲載を単行本化。

            いままでずっと濃い男たちの物語をよんできたので、一転して爽やかなものにしてみました。いわば今まで読んでいた本は焼肉大盛り定食なのですよ。たまにはサラダ風のパスタあたりも食べてみたい・・・ということで選んだのが伊坂幸太郎。なんと1年ぶりです。
            今まで読んだ作品は「重力ピエロ」「アヒルと鴨のコインロッカー」「オーデュボンの祈り」「チルドレン」です。おお、一人の作家に偏りにくいわしにしては結構読んでるほうだ。今を時めく作家さんなのでどんどん新刊も出てるし読むほうは結構大変。嬉しい悲鳴が聞こえてきそうです。(´∀`)

            今作品の主人公はクール(というか人間の感情に疎い)な死神さんです。自分が担当する人間を一週間監視して、「可」(死)か「見送り」(生)かを判断する。「可」になった人間は翌日死亡ということになっています。一応一週間監視しなければならないので、主人公の千葉も様々な年齢や外見になってホシを監視します。監視、というか知り合いになって一緒にいるパターンが彼は多いそうです。結構監視している人たちと友達っぽいカンジになる千葉がちょこっとカワイイです。本人はどこまでもクールですが。会話のズレたところもマヌケたかんじが良い。キャラ設定がいつも伊坂氏はいいですね。
            そんな彼が監視する6人の一週間。

            ていうか最初から「死神」が主人公であることになんの不自然さもカンジさせないところがすごい(笑 
            そして今回は伊坂FANにはたまらない趣向が一部ありましたよね。わしはかなり嬉しかったです。彼の過去作品に登場する男の子が登場していましたん。塀にスプレーで絵を描いていた彼です。・・・あえて白くして隠してみる。別に知っちゃってもかまわないや、という人は反転してください。なんだ、それだけかよ、というカンジもせんでもないですが・・・。

            伊坂氏は長編よりこういう短編が一番いいと思う。「チルドレン」もそうだったし。
            わしはかなり面白かったですヨ。

             (あ行)伊坂幸太郎 * comments(2) * trackbacks(1) * - - * moji茶
            アヒルと鴨のコインロッカー
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              < 最後のどんでん返しにハメられた! >

              花の大学生活をむかえるため、アパートに一人暮らしをはじめた主人公。
              そんな平凡な主人公が突然本屋強盗の共犯に!?
              首謀者は彼の隣に住む青年。彼は一体何者?

              過去の話に登場する女の子琴美と、現代に登場する主人公の話がどう交差するのかが読みどころです。
              ジャンルはミステリに入るらしいんですが、謎解きなどはありません。
              ていうか彼の作品てミステリか?

              久々のヒットです。
              わしの中で、伊坂幸太郎作品NO1は『チルドレン』でしたが、今回で『アヒル〜』が一位になりました!
              ところどころ納得いかない部分もやはりあったのですが・・・・。
              それは無視できる範疇ということで。
              彼独特のパズル的世界観がうまく表現されていたとおもいます。
              下手すると、いきなり過去の話が出てきたりとか、文章が過去形になったりとこちらが戸惑ってしまうんですが、今回はかなりよかったです。
              話にスピード感がでてたとおもう。

              最後のどんでん返しはホント驚かされましたね。ちょっとそこまではよめなかった。完全にはめられました(笑)。
              伊坂作品って、主人公たちにも甘くないですよね。なんか必ず不幸を背負っている。
              因果応報?悪行はそれ以上の善行を積んだとしても消えないっぽい。必ずツケを払わせる小説ですかね。それにしては自首しなさそうな主人公がいたりと時々謎が残りますが・・。うーむ。新感覚。
               (あ行)伊坂幸太郎 * comments(2) * trackbacks(0) * - - * moji茶
              「チルドレン」
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                チルドレン
                チルドレン伊坂 幸太郎

                講談社 2004-05-21
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                一話完結の短編集ですが、登場人物は一貫しています。
                陣内という破天荒な男を中心に世界が回ってゆきます。
                陣内が主人公、というわけではなく、短編それぞれに登場する主人公を通して陣内が語られる・・・という不思議な構造。
                1話1話に必ず出てくるのに、主人公ではありません。
                でもこの一冊の本という大きな単位になると陣内が主人公っぽい。
                (-L- ;)うーん。

                話はどれも面白かったです。ミステリーあり、シリアスあり、ほのぼの、ギャグありとかなりすいすい読めました。読後感はさわやかの一言に尽きますね。
                わしが好きなのは1話目と2話目。
                1話目はミステリーっぽくてかなり好きなカンジでした。
                2話目は家裁調査官というわしにとってはなじみの無い職業で奮闘する陣内君の後輩のおはなし。・・・ていうかあんな性格で家裁調査官な陣内がすごいな。どうやって試験うかったんだ。
                2話目の、子どもは一人だと英語でchildだけど、集団になるとchildrenになって別物になる、というくだりはかなり成程・・!と思いました。
                子どもって不思議だ。そして話の最後のオチもよかった(笑)。

                欲を言えば、陣内よりわしは鴨居君が好きなんで、鴨居君をもっと登場させてほしかったです・・脇役キャラに愛を注ぐわし。
                そういや御手洗よりも石岡君が好きだったなあと振り返ってみる。
                火村教授より有栖のほうが好きだしな。(´∀`) 
                自分のおかしな好みを再認識させられた本になってしまったよ。
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                 (あ行)伊坂幸太郎 * comments(0) * trackbacks(0) * - - * moji茶