直木賞作品。
壮大で膨大な情報量、練られたプロット、世界観、知識量。
日露戦争から終戦までの、満州を舞台に繰り広げられる歴史活劇で、だいたいは面白かったのだけど、あまりにも作りこまれていて、盛り込みすぎて、逆に中途半端感が否めない。広げた風呂敷をたたみきれず、粗削りな長編小説といった感じです。
読んでいると、前半あたりでは「よく調べてるんだろうな、作者の人はきっと頭いいんだろうな」という感じをひしひしと受ける。
石炭資源が、とか、ロシアと日本の当時の関係とか、中国国内の混乱具合とか読んでると、いかに中国国内の人間が外国人を恨んでいるかよく表現されていて、面白い。ふとジャッキーチェンやジェットリーのカンフー映画を思い出した。確かにあの時代、中国の人達は拳で鬼子を倒そうとしてるんだよな。銃を持った相手にもカンフーで立ち向かう勇敢な男たち。敵役はアメリカ人だったり日本人だったり。だから題名に「拳」を入れたのはうまいと思った。
他に気になるのは登場人物が多い点。その登場人物が微妙に他の登場人物と関わっていて、歴史も物語も、一人の主人公で作り上げられるものではなく、脇役に見えていた人物がある場面では主役だったりして、歴史とは主人公たちが複雑に絡み合って形成されるのであって、だからこそ争いが生まれ、守りたいものがあって、すれ違いを起こすのだ、という見方は共感するし面白かった。また、この話は基本的に父子と師弟という二つの軸で展開し、そこに史実なスリルとサスペンスと暴力を織り交ぜているので、全体としては面白い。
でも、肝心の登場人物たちにいまいち共感できないところが残念だった。作者はこういう世界観を描きたいんだろうな、とか、今はこういう感情に読者を浸らせたいんだろうな、という意図は理解できるものの、「それならもうちょっとこの人物のことをここくらいまで掘り下げてくれないと、この展開はあっさりすぎて、納得できんわ」とか、「いやいや、その話はそこまで作りこむ必要ある?作りこみが露骨すぎて逆に滑稽やん。」とか、「あの時はここまで練り上げておいて、ここは放ったらかしなん?」「そんなとんとん拍子にうまくいくはずあらへんやろ」とか、あちこち突っ込みが満載なところがあって、壮大にしすぎたがためにスキが多く、終わりに向かうにつれ雑な感じが否めず、それがいまいち作品の世界観に浸りきることができない原因になってしまった。
しかも、極めつけは最後のシーンがあまり好みではない・・・。
これは完全に私の個人的な趣味というかこだわりなので、どうしようもないのだけど。
昔愛した女と出会って当時をしのぶっていう展開は好きちゃうねんな・・・しかもこの作品、恋愛要素がそもそも薄く、全く胸熱な展開もないまま終わったはずなのに、その男女が国交成立前に密入国という危険を冒してまで会う必要ある???
作者って恋愛経験ないんかなっていらんことを心配するくらいには突拍子もない展開でびっくりした。
個人的には、二人は終戦後の混乱のせいで一生会えないまま終わって、主人公が老年になって国交正常化した後に中国に渡り、女の子孫から神父の地図を受け取った方が終わりはかっこよかったと思う。男ばかりの話でハードボイルドだったので、最後までハードボイルドを貫いてほしかった〜。
というわけで、いろいろと納得できない感じの読書に終わりました。