「人質の朗読会」
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    小川 洋子
    中央公論新社
    ¥ 1,512
    (2011-02)

    なんだかめちゃくちゃ感動したので、徒然なるままに書いていこうと思います。

    とある国の山岳地方で起こった反政府ゲリラの拉致事件。
    巻き込まれたのは、8人の日本人だった。
    彼らは人質解放の日まで様々なことをしてすごしていたが、ある日、人質解放に取り組んでいた政府軍の盗聴器から聞こえてきたものは、8人それぞれの物語だった。
    彼らは一夜一夜、淡々と自分の物語を語っていく、というところから話が始まる。
    今のご時世、なかなか衝撃的な出だしで始まる小説である。
    どれも印象的な話だったが、特に気に入っているものだけ紹介する。

    「やまびこビスケット」
    高卒の地味な女は「やまびこビスケット」という老舗のビスケットを作る会社で、ベルトコンベアーの上を流れてくるビスケットの中から不良品を選別する係りについている。
    安い家賃でアパートを借り、それなりの平凡な日々を送っていたが、偏屈で嫌われ者の大家とひょんなことから仲良くなり、この大家と過ごす日々が印象的に描かれている。大家は年老いた女で、金にがめつく、頑迷である。その大家とビスケットを介して仲良くなるのだが、読んでいくうちに、この大家の寂しい人生が浮かび上がってくる。大家の人生は儚く、そしてその老婆の話を人質たちに語るこの女性の人生も儚かった。
    そう思うと、いっそう悲しい思いがこみ上げてくる作品だった。

    「冬眠中のヤマネ」
    私立中学に合格した少年は、ある日道端でぬいぐるみを売る老人と出会う。
    当時自分の私立中学合格を予知し、なんでも分かっている気でいた彼は、大人になった今、当時の自分を無自覚で受け身なだけの少年だったと回顧する。そんな日々をぼんやりと無自覚に生き、それなりに過ごすだけの少年が自覚的に生きるようになったのは、とある老人との出会いがきっかけだった。
    少年が老人と接するうちに自我を獲得し、大きく成長していく様に感動した。そして彼は立派な眼科医になった。そんな彼が今でもお守りのように持っている黒ずんだヤマネのぬいぐるみが、成功者となった今の彼と釣り合わず不調和で、それでも肌身離さず持っているところに、彼と老人との、当時の短くも濃い邂逅がどれほどのものだったかを思い知る。そんな不思議な体験をし、優秀だった彼にも等しく不幸は訪れる。


    様々な経歴と、過去と、思いとを抱えて誰しもが生きている。有名人でもなく、ただの平凡な、時が経てば人質事件など忘れ去られ、消え去ってしまいそうな人たちは、だが、確かに自分の人生においては唯一の主人公であり、彼らに関わった人々や物事はかけがえのないものである。 8人はそれぞれの話を語ることで、これ迄の人生と、自分が今ここにあることを実感する。ここで語る彼らは意志的で、前向きである。彼らの生きてきた人生が全て尊いものであると感動できる。そしてその8人の話を受けて、当時解放側で盗聴の任務についていた政府軍兵士が語る「ハキリアリ」という話もよかった。
    8人は全員亡くなったが、語られた話は記録として残り、彼らの話を聞いた人間全ての記憶の中に彼らが確かにあの時、あの瞬間には生きていたという事実が残った。

    ・・・というわけで、久々に面白いものを読んだという感じがしました。
    後で調べると、wowwowでドラマ化もしてたそうですね。
    2012年の本屋大賞第5位にランクインしています。
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    「at Home」
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      本多 孝好
      角川書店
      ¥ 596
      (2013-06-21)

      初本多孝好です。ずっと気になっていた作家さんで、今回本の帯に「映画化」という文字が書いてあったので、それをきっかけに手に取ってみました。
      話は四編はいっていますが、どれも面白く、最初の一話目が映画化するようですが、どの話を映像化してもらっても面白そうです。文体に癖は無く、読みやすい。この人はミステリなんかも手掛けていて、昔「このミステリがすごい」にランクインもしたことがあるので、今度はぜひともミステリを読みたいです。

      全編を通じて共通するのは、どの家族も決して褒められた人々ではないということ。
      一話目の「at home」は父親が泥棒で母親が詐欺師、長男が偽造屋というありさまです。拳銃なんかも登場して、その銃を撃つのがまた・・・。かなり問題作のような気もして、手放しに「良い!」とはなかなか言えないお話なのですが、そこは作者の腕前の見せどころ。最後はキリっと締まって、細かいところなんか気にならないくらいのハッピーエンドでした。
      他にもバツイチ子連れ、息子に先立たれ妻とも離婚、児童虐待など、アンダーグラウンドな世界も。
      「リバイバル」はちょっと切ないお話でした。借金まみれだった50代の男が見せた小さな勇気。情ってのは枯れたと思っても、どこからか沸いてくるもんなんだろうな。主人公の生き方に良心の復活や家族の再生を見ました。
      という感じで、いろんな事情を抱えた登場人物が、現代の社会世相なんかも繁栄しながら、精一杯生きてます。どの話も救いがあって、最後は前を向いて歩ける感じ。
      とても良かったです。
      個人的に好きな話は最初の「at home」と二話目の「日曜日のヤドカリ」です。読後、「ヤドカリ」っていう命名が主人公ともう一人の男にぴったりで、新たな家族の形を見たような気がしました。

       
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      「ブラフマンの埋葬」
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        主人公の青年「僕」(年齢不詳)は、ある朝謎の生き物を拾う。
        水掻きを持ったその特徴的な体をした生き物に「ブラフマン」と名付け、青年は芸術家たちの集うアトリエで、密かに飼育を始める、というところから話は始まります。
        ブラフマンの飼育日記というか、彼(雄だということはかなり最初に判明する)と過ごした短い期間のお話です。
        ブラフマンはカワウソ?
        丸い鼻だとか、首がないだとか、胴体に比べて短い手足だとか、そして泳ぎが器用だとか、そういう記述を参考にすると、カワウソくらいしか思い付かない。無邪気で、主人公によくなついて、可愛らしく、水中ではすばしっこく。主人公とブラフマンとの交流にはとても心暖まるものを感じました。
        しかし、この主人公を単品で見たところ、かなり薄気味悪いんですよね。
        芸術家を留まらせるペンションの管理人なのですが、まず、年齢不詳。仕事は本人の口ぶりによればかなりできる方なのですが、雑貨屋の女の子に恋をしているようで、それがなんだかストーカーじみてて怖いです。
        彼女が彼氏とどこで逢い引きし、どこでセックスしてるかを詳細に知ってるんですよね。
        なのに彼女を運転の練習をしないかと言って呼び出して、密着して座ったり、彼氏のことをわざわざ話に出したり、逢い引きの事を話題にしたり。
        部屋に呼んでチョコレートを差し出すシーンも、私が彼女なら薬を盛られそうで食べたくありません。
        きっと女の子と同年代だって信じてますけど、ただでさえ気持ち悪いのに、これがまたおっさんだったらキモさ倍増です。
        とにかく主人公がキモい。
        そしてその主人公の変態性がまさに発揮されているとき、ブラフマンは彼女によってひき殺されるのです。
        しかも彼女はブラフマンの埋葬には来ませんでした。どれだけ主人公が彼女の意識の外に追いやられているかの証拠だと思うのですが、主人公はそれに気づいているのかいないのか。
        小川さんの文章は美しく、日常を脱した美しい森とその周辺という世界観はとても幻想的なのですが、その美しい世界に一点の黒い墨を落としたような主人公が、ただひたすら薄気味悪かったです。
         
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        「ゼロの焦点」
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          社会派推理小説という肩書に惹かれて読みましたが、あまり推理小説という感じはしませんでした。なぜなら、登場人物がそろったあたりで犯人の目星がついてしまうから・・・。
          偶然の目撃がやたら多く、真犯人にたどり着く手がかりは唐突にテレビから流れてくる。そんな都合のいい展開あるかいっ!と、読んでいて何回か突っ込んでしまいました。
          なので、推理を楽しむというよりは、主人公の禎子の胸中や、真犯人の心境を思いやって読むのが良いと思われます。
          夫の突然の失踪に翻弄される禎子は、清張好みの女性だったんだろうなぁ。やたらと「美しい」という表現が出てくるので、やっぱり美人なんでしょうね。初めての男が夫だし、貞淑で、素直で、それでいて気丈に犯人にたどり着く姿は、いかにも昭和の男が好みそうです。(作者は明治生まれなんですが)
          その夫との初夜のシーンはドキドキしました←
          そして、一緒に夫の行方を捜してくれることになる本多という男性との、越えそうで越えない一線。
          本筋より、そっち方面に関心が高かったです。
          題名の「ゼロの焦点」とは、「光輝いているのにその明るさは無いに等しい」という意味らしいのですが、まさにそんなお話でした。
          戦後の混乱を生き抜いた女が抱える苦悩。
          禎子の口を借りて語られる、清張の言葉にはきっと賛否両論あるでしょう。

          佐知子夫人の気持ちを察すると、禎子は、かぎりない同情が起こるのである。夫 人が、自分の名誉を防衛して殺人を犯したとしても、誰が彼女のその動機を憎み切ることができるであろう。もし、その立場になっていたら、禎子自身にも、佐 知子夫人となる可能性がないとはいえないのである。 いわば、これは、敗戦によって日本の女性が受けた被害が、十三年たった今日、少しもその傷痕が消えず、ふと、ある衝撃をうけて、ふたたび、その古い疵か ら、いまわしい血があたらしく噴きだしたとは言えないだろうか。

          私は昔、島田荘司にドはまりした過去がありまして、その時に読んだ彼の論には今でも共感する部分が多いのです。例えば、「どんな理由があれども、殺しは許されない。」という意見など。そうなると、清張の同情論にはどうも共感できない部分がありました。「どんな背景や理由があれ、殺す人は殺すだろうし、殺さない人は殺さない。だから動機なんぞは突き詰めても仕方がない。動機はさほど重要じゃない。」という島田氏の意見の方が、私は正しいと思っちゃうんですよねぇ。
          でも上記の引用が、あくまでもたおやかで美しい未亡人の禎子の意見とすれば、また感じ方も違ってきます←。
          戦後のあの時代、女が生きていくことがどれほど大変で辛いことだったか。
          私はその時代を知りませんが、一応映像や本で見知っている程度の知識でも、それはそれは大変だったことはわかります。極限状態に置かれた時、犯人の選び取った道が、生きる伸びるためには仕方がなかったこと。その古傷を、ようやく生まれ変わって幸せな生活を送っている時に突然えぐられた時の苦悩。手に入れたものが全て足元から崩れていく恐怖。
          そして犯人は知的な美人!←
          その犯人の心境を思った時、この小説を読んで初めてしみじみと考えさせられる気分になりました。
          あとは、何気に夫の鵜原が酷い男で、こいつは同情の余地がないんですけど、どうなんでしょう・・・?結婚する気も無い女と同棲してて、同時進行で禎子と見合いってどうなの・・・?同棲相手と縁を切るために偽装自殺とか、大人しい外見から想像もつかない腹黒さ。しかも初夜の時に禎子の裸とその女の裸を比較してる時点で、男としてどうなのよ・・・?
          だから、夫を殺されているのに、なおその犯人に同情的な禎子の姿にも頷けます(笑)。
          この小説中、禎子が夫に会いたい、夫を愛している、私というものがいながら女がいたなんて、なんて感傷的な描写はほとんどないんですよね。描かれるのは戸惑いばかり。確かに、見合いで結婚し、数日共に過ごしただけの夫が蒸発するので、女の方もまだそこまで情が移らない。
          なので、読後はどこか不完全燃焼感が拭いきれないのですが、ラストのシーンはジーンと来たり、場面場面はハラハラさせられたりと、面白かったのですが、なんというかむにゃむにゃ・・・荒削りというんでしょうか。
          推理中心というより、彼の小説は風景描写も細やかで、北国の暗鬱な空の下を、夫を探しさまよう主人公の姿が一層悲壮に感じられ、もっと違う表現をするならサスペンス小説?推理サスペンス?うーむ、どっちつかずのような気もしますが、次に読むなら『黒皮の手帳』かなって感じです。
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          「飲めば都」
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            お酒を愛する編集者、都さんのお話。
            話はがむしゃらに仕事をするキャリアウーマンのお話というわけでもなく、恋に破れた女が次の恋を必死に探すお話というわけでもなく、程よくその中間を行く感じ。
            主に話は居酒屋や小洒落たバーが中心です。
            一癖も二癖もある編集者たちの酒にまつわるお話が面白かったです。そして誰よりも突き抜けている都さん(笑)。
            記憶がなくなるって不思議な現象ですよね。
            勝負パンツのくだりは爆笑しました。本命の男性にパンツ押し付けるなんて破廉恥だわ都さんたら!
            絶妙のタイミングで大曽根女史がエレベーターからでてくるし、巻き込まれた編集長が憐れでした。そら、私だって親切とからかいの代償が可愛がってる部下からの腹パンチだったら叫ぶわ。(笑)
            そういう笑えるエピソードもありつつ、中には切ない失恋のお話もあったりして、アラサー女子の悲喜こもごもなんかも味わえます。
            中には編集者の話らしく、近松門左衛門原作の『夜の鼓』か紹介されていました。一度、森雅之という俳優さんを見てみたいです。
            最近思うんですけど、私がたまたまそういう本を手に取っているというわけではなく、やはり意図的にアラサー女子が主人公のお話が増えてませんか?
            同世代として共感するところも多く、思わず読んじゃうし、面白い!と唸るものが多いのですが、特に仕事と結婚生活を両立させてる主人公が多い。主人公がそうでなくても、脇役がその立場で、主人公の憧れだったりとか、上司だったりとか。
            今時を反映させてるんですかねー。
            はてさて、都さんはめでたく恋愛成就の運びとなるのか、はたまた担当の雑誌の企画はどうなるのか、頼れる先輩方の恋愛事情、結婚事情。現実は全てが同時進行で、慌ただしい。そんな日常を北村節でたいへん面白く纏められていました。
            面白い、というよりは楽しかったかな。
            そして全部読んだ後、表紙を見ると、またまたほっこりするという仕掛けに。文庫もハードカバーも心憎い仕様です。
            あと、この小説内に出てきた何種類かのお酒や料理が美味しそうでした。
            大七(だいしち)や濃いルビー色のシメイの赤。モスコミュール、ジントニック、ウォッカトニック、コペンハーゲン、マティーニも。
            鶏肉とドライトマトのペペロンチーノやポテトフライ、火鍋、なまこなどなど。
            読んで美味しい小説でもあります。
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            「旅屋おかえり」
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              主人公"おかえり"の天真爛漫なキャラクターに好感が持てた。
              たった一社しかないスポンサーの会社名をライバル会社の名前と言い間違えたことから、会長の怒りをかい、旅番組が打ち切りになって、ひょんなことから舞い降りた旅行代行業。 ちょっぴりドジな"おかえり"ちゃん。
              彼女が旅に憧れるきっかけや、家族の描写、初めて行った東京の修学旅行。
              旅の楽しさを再確認させられたり、社長とおかえりとの心暖まるやり取りにほっこりさせられる。
              華道の家元の鵜野さんとのエピソードも良かったし、特に高知県でのエピソードは、何度か涙腺が緩んだ。
              どちらかと言えば、このお話は人情もののような展開で、うるっとくるシーンが何カ所か設定されている。
              服紗から木綿の着切れが出てきたときは、四世代の繋がりが本当に見えた気がして、本当に感動した。
              おかえりが礼文島に帰る日も、すぐに違いない。

              ーー作者に関してーー

              去年読んだ「楽園のカンバス」が素晴らしくて、この人の本は他の本も是非読んでみたいと思っていた。
              たまたま図書館の新刊として入ってきており、司書さんのかわいい手作りのキャプションと、華やかな表紙に惹かれて読んでみたのだが、これがまた、「楽園のカンバス」とは全く違う趣向で面白かった。
              前作はクールな主人公(ハートは熱いが)が登場したが、今回の主人公は打って変わって、どこまでも楽天的で、好きな男の人にはちょっと内気で、かわいい女の子・・・といってもアラサー。
              こういう幅の広い小説を書く人って凄いなあという感想を持ちました。
              一押しの作家さんです!


               
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              「あつあつを召し上がれ」
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                小川糸さんの小説は、「食堂かたつむり」に続いてこれが二冊目です。
                この人の小説にはたくさんの美味しいものが登場するので、一話一話涎を垂らして読みました。
                今回は短編集です。
                最初の「バーバのかき氷」は切なくて、思わず涙が溢れてしまいそうになりました。今回のお話は「死」と「別れ」を連想させるものが多かったです。勿論ハッピーエンドもありましたけども。どちらかと言えば暗い話が多かったかな。でも、主人公たちはそれを淡々と受け止めて、家族と笑ったり悲しんだりしながら日々を過ごしていました。
                この人の作品は、食欲と性欲と死がないまぜになっていて、明るいだけの話でもなく、暗いだけの話でもない。色んなものが詰まっていて、一つ一つの話が深いです。そしてその話を際立たせるのが登場する料理。
                作中に登場するかき氷、シューマイ、豚バラ肉、松茸、お味噌汁、コロッケ、ポトフ、きりたんぽ―――どれも美味しそうで、この人の表現がまた絶妙で、匂いや味、舌触りなどリアルに伝わってきます。読んでる間はずっと唾液が分泌されてました。
                最後の「季節はずれのきりたんぽ」では、40で子供を諦めたという主人公が出てくるのですが、楽しくも寂しく、悲しくも充実した日々を送る登場人物たちを見て、人ってこうして生きてるんだよなぁってしみじみ思いました。自分と似通う話もあって、特に印象深かったのかも。
                この人の本は他も読んでみたいです。
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                「誰か」
                0
                  宮部 みゆき
                  実業之日本社
                  ---
                  (2003-11-13)

                  穏やかで落ち着いたミステリーだな、というのが第一印象です。面白かったのですが、やや退屈してしまいました。
                  主人公は大手財閥の出版部門に属している杉村三郎という一児の父親です。義父はそこの会長で、妻がそこのご令嬢。
                  この小説は、謎解きよりも親子とか家族に焦点を当てて描いているので、三郎のキャラクターもガツガツ働くサラリーマンではなく、定時帰りのマイホームパパです。こういう主人公って個人的には珍しかったです。
                  自分には分不相応の妻を手に入れて、可愛い女の子まで授かって、こんなに幸せで良いのかと、現在の幸福がいつまで続くのか不安な主人公。話の途中では自転車に轢かれたりと、あまり冴えた男ではありません。でも、家族を何よりも愛し、実直なところを義父は気に入っているようです。
                  梶田という、義父の個人運転手を勤めていた男が事故死した件で、縁あって彼がにわかに探偵のような役割を担っていくわけですが、読者は始終穏やかな三郎と現場を見に行くわけで、山場とかはあまりありません。双子の姉妹がまさかそんなことになってるだなんて、という驚きはありましたが、小さいものでした。
                  犯人に迫るときも、父親としての視点が入り、子を持つ父としての感慨が語られたりします。スクールカウンセラーに対する意見や警察の迫り方に対する三郎の想いも、かなり穏やかな親目線。・・・ですが、私にはそこらへんがやや冗長に感じられてしまい、よく練られた話のようにも思うのですが、ラストにたどり着くまでしんどい読書でした。
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                  「食堂かたつむり」
                  0
                    小川 糸
                    ポプラ社
                    ¥ 1,365
                    (2008-01-10)

                    多少荒削りな面がうかがえるものの、とても素敵な話でした。
                    ホロリときたり、ヨダレが垂れたり。またたび酒に白ワインをまぜたお酒飲んでみたいです・・・。芥子の実が入ったドーナツも。あたたかい参鶏湯も、ザクロのカレーも。どれもこれも美味しそうで、静かな空間の、緩やかな時間の流れの中で作る、主人公の手料理にたまらなく惹かれました。
                    そして、エルメスの話は泣いてしまった。だって、まさかそんなことになるなんて思いもよらないじゃないですか・・・!?え、え、本当にしちゃうの?えええ????と、読んでいる側もどうすることもできないままエルメスの経緯を見守るしかない。なるほど、へぇぇ、と感心しながらも、泣いてしまいました。
                    食べることは生きることで、生きることは誰かの命をいただくということで。死と生、不幸と幸福は縄のように交互にやって来る。この世界の理みたいなことを、ひしひしと思い知らされるお話でした。
                    主人公の倫子が知り合いに何となく似ていて(生き方か?)、私も彼女や主人公の倫子を見習って丁寧に生活しようと思うのですが、かないません(笑)。とりあえず、出汁をとるくらいはできるかなぁ。粉末だしを使ってるんですけど、あれって塩分高いんですよね?そろそろアラフォーだし、身体に入れるものくらいは自然のものを取りいれたい今日この頃。せめて煮干しだけでもいいし、鰹節とか、ちょっとやってみようと思います。
                    とにかくたくさんの料理とお酒がでてきて、その食材の表現なんかも素敵で、手元においておきたい本でした。

                     
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                    「香港の甘い豆腐」
                    0
                      大島 真寿美
                      理論社
                      ¥ 1,575
                      (2004-10)

                      豆腐花って美味しそうですね。
                      思わず作り方をググってしまいましたが、にがりじゃなくて石膏をつかうと知って、あの石膏なのかと驚いています。食べれるんや。

                      主人公の心の壁が、香港の熱風によって取り払われ、父親を、そして自分自身を受け入れていくところは小説の山場でもあり、こちらの気分も盛り上がりました。香港の町の匂いを嗅いでみたり、麺をすすってみたくてたまりません。油まみれになってわたしもダックが食べたい。
                      全部読んだ後に本の題名を見返すと、やっぱりこれしかないかなって感じです。
                      場面転換や主人公の心情変化の度に美味しい食べ物が登場して、お腹いっぱい大満足のほかほか小説でした。

                      以前読んだ「ピエタ」とはまた違った趣ですが、引き出しの多い作家さんだな、とまだ2冊しか読んでないけど思いました。
                      学生の頃は読まず嫌いな作家さんが多く、最近は読書をしてなかったりで、読書を再開した今は、新しい作家さんとの出会いが楽しいです。特に女性作家さん。
                      視点も様々で、深みもあるし、今時で、もっと早く読めばよかったと思うも
                      のばかり。
                      時間もあるもんだから、がつがつ読んじゃってます。
                      Check
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