「まず牛を球とします」
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    SF短編集。

    ネットの「カクヨム」からデビューを果たした方らしく、去年話題になったとか。

    育児を理由に読書をさぼっていたので最近の作家さんは全然知らないのです。できるだけ新しい人を読もうと思っている今日この頃。

    題名も面白ければ各話も面白い。SFっていうよりは、もっと違うジャンルのような話もある。

     

    まず牛を球とします
    牛の話かと思いきやかなりぶっ飛んだ設定だった。倫理観に迫る。いきなりわけわからん世界観でイカれてる。大好き。
    数を食べる
    どういう頭ならこういう発想ができるのか謎。面白い。
    石油玉
    石油玉とは・・・。最初からよくわからんがなんか切なくて好き。
    家に帰ると妻が必ず人間のふりをしています
    やばいやばい。なんかホラー
    ルナティック・オン・ザ・ヒル
    月と地球の月面戦争。酸素はあと8時間もあるのに2人が自殺したのは、月人にとってこの戦争は本土決戦だったからかなと合点がいった。コンピュータに戦争を数値化という形で表現され、その数字に左右される未来人のセンチメンタル。
    大正電気女学生

    時代は大正。未来と交信するお話。


    どんな人間の一生も、つまりは己へと向かう道だ。試行錯誤の道、かろうじて見える小道。だけど自分自身になれた者なんていまだいたためしがない。それでも百人が百人とも、自分自身になろうと努力する。 デミアン
     

    改暦

    中国の元の時代の暦の話。なんかここまで読んでくるとこの著者は本当に題材が幅広く多彩な話を思いつくなと感心してしまう。


    考えれば考えるほど、己の生きてきた道は、他の何かによって決められたことばかりである。太陽や月が自身の行く末を選べぬように、人は自分の生きる道を選ぶことができない。法則によって算出された軌道を辿るのみである。

     

    コンピュータに管理され、生きているのか生かされているのかわからなくなる人々が時々出てくるので気になりました。 節理とか条理とか、人の意志ではなくなにか大きなものに左右されるという世界観のお話多めで面白かった。 私が最近読んでる新しめの作品にただよう世界観は「人は己の意志で未来を切り開くのではなく、ほぼ偶然のなりゆきにそってなんとなくいきているのだ」みたいな話が多い。これが今どきの3,40代の作家さんの主流なのかな?一方、アニメや漫画は相変わらず「未来は俺たちの手で切り開く!」みたいな昭和のノリが多いけどね。漫画と小説で世界観が隔絶しているような気がします。

    小説 * comments(0) * - * - - * moji茶
    「地図と拳」
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      価格: ¥ 2,420
      ショップ: 楽天ブックス

      直木賞作品。

      壮大で膨大な情報量、練られたプロット、世界観、知識量。

       

      日露戦争から終戦までの、満州を舞台に繰り広げられる歴史活劇で、だいたいは面白かったのだけど、あまりにも作りこまれていて、盛り込みすぎて、逆に中途半端感が否めない。広げた風呂敷をたたみきれず、粗削りな長編小説といった感じです。

      読んでいると、前半あたりでは「よく調べてるんだろうな、作者の人はきっと頭いいんだろうな」という感じをひしひしと受ける。

      石炭資源が、とか、ロシアと日本の当時の関係とか、中国国内の混乱具合とか読んでると、いかに中国国内の人間が外国人を恨んでいるかよく表現されていて、面白い。ふとジャッキーチェンやジェットリーのカンフー映画を思い出した。確かにあの時代、中国の人達は拳で鬼子を倒そうとしてるんだよな。銃を持った相手にもカンフーで立ち向かう勇敢な男たち。敵役はアメリカ人だったり日本人だったり。だから題名に「拳」を入れたのはうまいと思った。

      他に気になるのは登場人物が多い点。その登場人物が微妙に他の登場人物と関わっていて、歴史も物語も、一人の主人公で作り上げられるものではなく、脇役に見えていた人物がある場面では主役だったりして、歴史とは主人公たちが複雑に絡み合って形成されるのであって、だからこそ争いが生まれ、守りたいものがあって、すれ違いを起こすのだ、という見方は共感するし面白かった。また、この話は基本的に父子と師弟という二つの軸で展開し、そこに史実なスリルとサスペンスと暴力を織り交ぜているので、全体としては面白い。

       

      でも、肝心の登場人物たちにいまいち共感できないところが残念だった。作者はこういう世界観を描きたいんだろうな、とか、今はこういう感情に読者を浸らせたいんだろうな、という意図は理解できるものの、「それならもうちょっとこの人物のことをここくらいまで掘り下げてくれないと、この展開はあっさりすぎて、納得できんわ」とか、「いやいや、その話はそこまで作りこむ必要ある?作りこみが露骨すぎて逆に滑稽やん。」とか、「あの時はここまで練り上げておいて、ここは放ったらかしなん?」「そんなとんとん拍子にうまくいくはずあらへんやろ」とか、あちこち突っ込みが満載なところがあって、壮大にしすぎたがためにスキが多く、終わりに向かうにつれ雑な感じが否めず、それがいまいち作品の世界観に浸りきることができない原因になってしまった。

       

      しかも、極めつけは最後のシーンがあまり好みではない・・・。

      これは完全に私の個人的な趣味というかこだわりなので、どうしようもないのだけど。

      昔愛した女と出会って当時をしのぶっていう展開は好きちゃうねんな・・・しかもこの作品、恋愛要素がそもそも薄く、全く胸熱な展開もないまま終わったはずなのに、その男女が国交成立前に密入国という危険を冒してまで会う必要ある???

       

      作者って恋愛経験ないんかなっていらんことを心配するくらいには突拍子もない展開でびっくりした。

      個人的には、二人は終戦後の混乱のせいで一生会えないまま終わって、主人公が老年になって国交正常化した後に中国に渡り、女の子孫から神父の地図を受け取った方が終わりはかっこよかったと思う。男ばかりの話でハードボイルドだったので、最後までハードボイルドを貫いてほしかった〜。

       

      というわけで、いろいろと納得できない感じの読書に終わりました。

       

       

       

       

       

      小説 * comments(0) * - * - - * moji茶
      「あのこは貴族」
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        「上級国民」という言葉が生まれて間もない昨今ですが、そういう地位の方々を題材にした小説です。

        面白かった!

         

        ヒエラルキーの上位と下位は一周回って同じなのが面白い。

        最上層(東京生まれ東京育ちのお金持ち)と最下層(ひなびた田舎)の人間は、実はどちらも狭い世界の中で、自分たちを普通と信じて生きている。それなのに両者の間には超えがたい壁があって、永遠に交わることはない。この微妙な世界が見事に表現されている。

         

        上流階級の方々のお正月や各節句の過ごし方、美術館やお芝居などの教養など。音も立てず紅茶を飲む作法。ホテルの4500円のアフタヌーンティーを嗜む日常。

        庶民が必死に勉強して名門大学に通っても、決して手に入らない日常、超えられない壁。格差。同じ日本に住んでいるのに、一生理解しあうことなく終わるんだろうな。というあたりが読んでいて共感できるし面白かった。

        海外の上流サロンでも、差別撤廃、自由を謳いながら、決して黄色人種と黒人の入る余地はないという話をどこかで読んだ。無自覚に排他的な偽善的種族、それが上級国民。言い過ぎか(笑)。でも簡単に言うと、自分が友達になりたいと思う人は結局自分と同じような育ちの人になるよね、という話なんだと思う。金銭感覚とか、お友達のおうちにおよばれした時の作法とか。好きなスポーツとか。そういうのを答え合わせしていったら、結果的に同じような階級でつるんでるというだけのお話。

         

        恋愛論の参考に「心中天の網島」が出てくるところはぶっとんだけど、上流階級の大学生は伝統芸能の謡曲もたしなんでいるという設定だったのか、はたまた、作者の趣味だったのかは推し量れなかった。(笑)

        まあでも、着物雑誌とか読んでると、「着物を着てお芝居を見に行こう!」という企画はよくあるから、「セレブ=着物=伝統芸能」という繋がりなんかな。

         

        主人公の華子の世間知らずっぷりや困惑っぷりは好き嫌いがわかれるだろうけど、私は結構好きで、応援しながら読んだ。

        結婚をゴールとして捉えて、必死に幸せを求める華子。

        華子よ、結婚はゴールやない。新たなステージに移るだけなんや!幸せになるとは限らんのやで!と心の中で突っ込みを入れてしまった。やきもきする場面もあったけど、そういうの込みでエンタメ小説だったな。

         

        結婚後も落ち着かない華子の姿も読んでいて面白かったし、最後はそういう展開になるのか、と意外なところもあり、納得のところもあり。別れたあとに二人が本音を話し合うシーンはよかった。「住む世界が違う」という言葉をひしひしと感じられるシーンだったと思う。

         

         

         

        小説 * comments(0) * - * - - * moji茶
        「テスカポリトカ」
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          価格: ¥ 2,310
          ショップ: 楽天ブックス

          『マスターキートン』とか『スプリガン』を青春期のバイブルとして生きてきたオタクは今、申し分ない名作と出会いました。

          やばい。今年度一番面白かったし泣いたかもしれん。

          直木賞と山本周五郎賞のダブル受賞。

          初めはメキシコの殺伐とした空気、麻薬、殺人、アステカの神話が織り交ざったグロ系小説で、いったいこれのどこが山本周五郎やねんと思いながら読んでいましたが、中盤から様子が変わってきて、ラストに向かうにつれて涙がとまらない。こんなに切ない小説があるだろうか。うおおめっちゃ面白かったからみんな読んで!

           

          結局バルミロは祖母の呪縛から解き放たれることはなく、一方コシモはバルミロの洗脳から解放され、新しい世界を生きていく。残酷で恐ろしい話だったけど、純真な少年が最後助かって、希望を残すラストはすごくよかった。

          心臓をとりだすシーンとか、黒魔術とか話の前半部分も大好物。

          でも、読みどころは中盤、バルミロが日本にやってきてからになると思う。最初はコシモはこのままバルミロの殺し屋として活躍し、世界を悪で埋め尽くすんかと思いながら読んでた。それはそれで面白いし。殺戮シーンもすごくよかった。北野監督のアウトレイジの世界だった。でも、でもな・・・

           

          「わたしが求めるのは憐みであって、いけにえではない。」とはどういう意味か、行って学びなさい。

           

          カヌーの上で二人きりになるシーン。

          パブロの涙ながらの説得はすごくぐっときて、一緒に泣いた。そうだ。キリストが十字軍を作ったんじゃない。キリストが侵略と略奪を許したんじゃない。大事なことを見落としてるんやコシモ、お前が見ている世界は狭すぎる。

          大切なことはお前の嫌いな聖書にだって書いてあるんや・・・コシモ・・・目を覚ませ・・・

          決死の覚悟のパブロは最後まで優しい男で、その優しさがコシモを導いていく。

          パブロのコシモに対する感情はもう師匠というより父親やん・・・。コシモはずっとバルミロをパドレ(父)として慕って、崇拝してきたけど、最終的にパドレの呪縛から解き放たれたのはすごく感動的で、パブロのこの言葉なしにはあり得なかった奇跡で、ああ〜パブロ、ほんまにお前は父が遣わした天の使い・・・。ほんまありがとう。両手でおがんだ。コシモにとって本当の父親はパブロなんだよぉ〜。それがちゃんとコシモにも伝わってるのがラストで描かれているのも、ペンダントの名前についても、作者ありがと〜!てまた両手でおがんだ・・・。コシモはたくさんの人を傷つけたり殺したりしたから、追っ手がいたり、きっと日陰者として生きていくかもしれんけど、決してバッドエンドじゃないところもすごくいい話だった・・・。

           

          めっちゃ人死んでるけどね。

           

          読後しばらく思考がまとまらなくて、今でも感動を文字化することができないんだけど、殴り書きみたいにして書いた。

           

          小説 * comments(0) * - * - - * moji茶
          「木挽町の仇討ち」
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            江戸木挽町の芝居小屋前で派手な仇討ちがあった。

             

            最初の一八の語りが、一番最後まで読んでからもう一度読み返すと笑えてくる。もう完全に自分の持ちネタやん。

            仇討ちの目撃者たちが語る一話一話にエピソードから味わう江戸の人情噺。

            落語のような、浄瑠璃のような。

            ラストにむけてどんどん面白くなっていきます。

            でもあまりにもあっさり読めてしまって、エンターテイメント小説としては十分なんだけど、なんかもっと読みたかったって感じです。不完全燃焼感。

            小説 * comments(0) * - * - - * moji茶
            「宙ごはん」
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              価格: ¥ 1,760
              ショップ: 楽天ブックス

              *めっちゃネタバレなんでラストを知りたくない人は読まないでください*

               

              最近流行りのこの手法。

              つらいことを抱えた主人公がおいしい料理で癒される系・・・。

              いつから流行り出したんだろ。あなたのごはん系小説はいつから?どこから?私は「ランチのアッコちゃん」から。

              もう大体の展開はわかってるんだよ〜。どうせ辛い経験をした女の子がおいしいご飯で癒されて、明日も元気に生きていこうってなるんだろぉ〜。ベッタベタなここ数年やりつくされてるネタ〜。誰がもうだまされるもんか〜。といいながら、つい読んでしまう・・・。

              小説に登場するメニューが作者によって違うんだい!とか、よだれ垂らして読んじゃうくらい美味しそうな描写がいいんだい!とか、なんか結局こういう小説を読んでしまう。そしてこの本です。

               

              母親は有名画家!そして過去は謎に包まれている!極めつけは父親のいない娘「宙(そら)」!

              ほらもうベタすぎるやん。でも、つい読んでしまったのはですね、これもまたベタな登場人物になるんですけど、主人公たちのためなら自己犠牲もいとわない根っからのいい奴「恭弘(やすひろ)」のせいです。

              こんないい奴いるか!こんなうまい展開あるか!みたいな話のオンパレードなのに恭弘のおかげで心があったまって泣けてくる・・・。だめだもう作者の手中に収まってしまっているとは思っても、もう抜け出せない。続きが気になって、ついついページをめくってしまう。恭弘が助けてくれる!宙!がんばれ!恭弘早く結婚しちゃいなYO!ヒューヒュー!

              そうやって読者が恭弘と宙が本当の家族になればいいのに、なんておセンチなことを考え始めた矢先、作者はやってくれるんですよ。

              最大の手法で私のような薄汚れた心を持つ読者の心を平気でへし折ってくるんです。

              『鬼滅の刃』や『進撃の巨人』などで鍛えられた私の心をあっさりと折ってしまいました。ええ、ほんとぽっきり折れましたよ。

               

               

               

               

               

              作品のクライマックスに向かってボルテージを上げていくのはわかるんですけど、最高潮のクライマックスシーンを演出するためだからって、恭弘を殺す必要ありましたかね。

              なんかめっちゃ短期間で、ページ数の都合もあるでしょうが、宙は思い出のパンケーキを作って、みんなに自分の夢を語って立ち直ったんですけど、読者の私はいまだに立ち直れず、ずっと恭弘ロスに苦しんでいます。

              宙!恭弘をお星さまにするの早すぎ!

               

              この作者はおそらく人の心がないです。辛すぎます。

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              「伊藤くんAtoE」
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                てんで駄目な男伊藤。見た目は良いけど中身は最低。自分で決められないし何も始められないし優柔不断で我が儘気まま。こんな男に振り回される五人の女のお話。

                微妙に繋がる展開です。

                取り敢えず伊藤くんが屑すぎて・・・。でも最後のシナリオライターとの話は面白かった。伊藤くんにも信念?みたいなのがあったことが分かり、でもその内容が呆れるやら開いた口が塞がらない。アホを相手にするのは疲れるの一言なんだけど、五人の女の子たちが面白くて最後まで読まされてしまった。伊藤はキモいが五人の女性たちにはこれからも頑張って欲しいです。

                小説 * comments(0) * - * - - * moji茶
                「本屋さんのダイアナ」
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                  育ちも性格も正反対な2人の女の子が互いを羨みながら、憧れながら、人生に立ち向かうお話。彩子とダイアナそれぞれの人生に共感するところがあり、面白かった。女同士の嫉妬、うとましさ、そういう汚い部分も描かれているけど、印象的なのはダイアナのひたむきさ。めっちゃ応援したくなったし、意外な展開に手に汗握ったし、そうかと思いきやまさかの彩子ちゃん!!!!退屈する暇もなくあっという間に世界観に引き込まれて一気に読みました。あと、武田くんがめっちゃ良い奴だった。

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                  マカンマラン
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                    少年どもよ大志を抱け

                    本当の大人への道程は、お前らが思っているより、はるかに長い

                     

                    一話完結の短編集で、マカンマランというお店に通う客一人一人の物語。

                    春のキャセロールと最後のアドベントスープが食べてみたい同率第一位。

                    教職への情熱を取り戻していく柳田先生の話が一番好きだけど、退職を決心して新たなスタートを切った塔子の生き方は応援したくなる。

                     

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                    悪意の手記
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                      不意に得た病のために、僅か15才で死と向き合うはめになり、苦しみ、嘆き、心をズタズタにされた主人公が、死を覚悟したある日、不意に治癒し社会に投げ出されるところから話が始まる。

                      生を憎み、生者を呪いながら病床にあった彼は、退院後も日常生活に全く馴染むことができず、幻覚を見、頭はぼんやりとして、病床で考えていた死にとらわれ続けるが、そのさなか友人を殺めてしまう。

                      どれだけ深く物事を突き詰めて考えていたとしても、その殺人もその後の行いも思春期の少年法の幼なさであり、その幼さと死の影に翻弄されながら10年ほど投げやりに、死んだ気持ちで生きていく主人公の描かれ方に、夏目漱石の「こころ」を彷彿とさせるものがあった。

                      殺した友人の名前がイニシャルの「K」であったり、友人を殺した主人公がその犯した罪に常にとらわれ、片時も息もつけないような人生を送っている点など、「こころ」の先生のその後を作者が予想して描いたのではないかと思うところもちらほらあった。

                      読み進めているうちに、これは殺人をテーマにして描かれた小説なんだなとは誰もが早くに気づくことになろうが、作者の道徳観や人生観などが誠実に表現されており、好感を抱いた。

                      これは名著だと思う。

                      自分のことで精いっぱいだった主人公は様々な出会いを経て視界が広がり、今まで自分がどれだけの人を傷つけていたかに気付き、これまでの自分の罪を受容し、それでも生きていく決心をする。

                      死にとらわれている主人公を取り巻く登場人物、武彦、祥子、リツ子の描かれ方がよかった。

                      武彦は凶暴な男だが、妙に主人公には甘かった。また彼も主人公と同じで何かを変えようとして必死だったのかもしれない。

                      あとは、最後の母親の受話器ごしの「言ったら駄目よ」という言葉は一瞬寒かった。

                      一人称小説は一人の視点からしか物事は語られないわけであるが、この母親の言葉は当時の事件の全貌をつぶさに表すものだと思う。

                      我が子の異変に気付きつつも、殺人犯にはしたくないという思い。母親もまた、主人公と同じ年月を苦しんだのか。

                      人生はその人一人だけのものではなく、多くの人を巻き込んで織りなされていくものなんだと考えさせられた。

                      こういう仕込みも作者はうまい。

                       

                       

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